二 十 年 後 の サザエ さん。 『インド巡礼1080日—椎野能敬遺稿集—』という本を頂いた/松本榮一

実家の兄の四十九日法要と納骨

二 十 年 後 の サザエ さん

あぁ、休日が終わってしまう… 日曜夕方。 今週も出かけることなく引きこもり、部屋にこもって動画三昧。 楽しかったはずなのに、なぜか苛まれる後悔と焦燥。 次に目覚める朝には、また週5日の仕事が待っている。 徐々に頭の中を支配しはじめる週明けの自分。 溜まっているメール、やるはずだった仕事、日々の定例業務…。 次の土日に思いを馳せても、まだまだ先は長い。 そんな憂鬱な時間を過ごすとき聞こえてくるのは、心と裏腹なあの軽快なオープニングテーマ… 繰り返される儀式 社会人になって数年経ってるはずなのに、毎週儀式のように繰り返されるこの状態・・・でも本当は・・・ 「日曜夕方を憂鬱な気持ちに襲われて過ごすのは嫌だ!」 「気持ち良く日曜日を終えたい!」 「休日の終わりを想像して、焦りたくない!」 金曜日だけでなく、少しだけ 月曜日も好きになりたい。 これからも社会人生活はまだまだ続きますし、どうにかしたいとずっと思っていました。 流石に何か対策はないだろうかと…なので、調べてみました! どうして「サザエさん」? 休日の終わりが近付き、明日からまた通学・仕事がはじまるという現実に直面すると、気持ちが憂鬱になったり体調不良になる症状。 この症状は、日曜夕方、あの国民的アニメの放送が終わるころに現れます。 そう、「サザエさん」です。 週5日間頑張った仕事から解放され、楽しい休日も終わりだと自覚するパターンが、「サザエさん」の放送と被る毎週日曜夕方頃であることから、 「サザエさん症候群」と呼ばれています。 また、シフト勤務で平日休みの方は、違う曜日に似たような症状が出るとのこと。 もちろんこれもまた、「サザエさん症候群」です。 海外版のサザエさん症候群「Blue Monday」 休日が終わりに近付くと気分が落ち込む「サザエさん症候群」。 この症状は日本特有のものなのでしょうか?実は、世界にも似たような症状があります。 海外版のサザエさん症候群、その名も 「Blue Monday」 直訳すると、「憂鬱な月曜日」。 休日明けの月曜日から、仕事が始まることへの憂鬱な気分をあらわす言葉です。 「サザエさん症候群」の真実 の研究によると、心臓への負荷は月曜日の午前が他の曜日・時間帯より高いことが分かっています。 「サザエさん症候群」の主な症状を一部抜粋します。 ・気分が憂鬱になる ・不安や恐怖を感じる ・眠れない ・胃痛や頭痛 ・体が怠い ・食欲がなくなる その症状は、人によって千差万別です。 憂鬱な気持ちを少しでも緩和したい、治したい。 筆者だけでなく、同じように思っている方もいらっしゃるかと思います。 そもそも、原因はどこから来ているのでしょうか?そこを自覚しなければ、延々と休日の夕方に憂鬱な気持ちに襲われるばかりです。 十人十色の原因 「サザエさん症候群」の主な原因はストレスです。 ストレスが原因ではありますが、「何が」ストレスになるのかは十人十色。 残念ながら、 原因は一概に「これ」とは断定出来ません。 例えば、職場の人間関係かもしれないし、仕事内容かもしれない。 もしくは仕事とは関係ない、プライベートでの心配事かもしれません。 生活リズムの乱れや、不規則な生活も「サザエさん症候群」の一因になり得ます。 でも原因が分からなければ、対策のしようがありません。 ということで、調べてみました。 サザエさん症候群に陥りがちなパターンは? アメリカのとある大学研究チームによると、休日に平日より2時間多く寝ると、その後の1週間の体内リズムが乱れてしまうとの見解がありました。 ここで、筆者のとある休日の過ごし方を振り返ってみましょう。 ・朝は二度寝後、起床 ・家にこもりネットサーフィンや漫画三昧 ・動画配信サービスで映画やドラマを見つつ昼寝 ・土曜と日曜の二日間これの繰り返し ・気が付いたら休日が終わる 改めて書き出してみるとひどい…この休日の過ごし方では「サザエさん症候群」になるべくしてなったという感じが否めません。 2日間緩み切った「休日モード」から、平日の「仕事モード」に切り替えるには相当エネルギーが必要になります。 「サザエさん症候群」は、 オン・オフの境界線があるからこそ起こる症状ともいえそうです。 「サザエさん症候群」に陥りやすいのはこんなひと また、「サザエさん症候群」になりやすい人の特徴もあります。 思わぬところに潜む危険 日曜夕方に憂鬱な気持ちになる「サザエさん症候群」ですが、中には症状が軽くない場合もあります。 もしも、憂鬱な症状が日曜の夕方だけでなく、日常的にみられるようであれば、「サザエさん症候群」で済まされない可能性があります。 ・月曜日が嫌で涙が出て来る ・月曜日が嫌で体調不良になる など 重い症状が続くようであれば心療内科に診てもらった方が良いです。 重症化しているのであれば、 「うつ病」の一歩手前の可能性も十分考えられます。 「うつ病」のきっかけは、日常生活の思わぬところに潜んでいます。 「うつ病」を患ってしまうと、治療には思いのほか時間がかかってしまいます。 早めに医師の診療を受けるようにしましょう。 磯野家からの脱出! 放っておくととんでもないことになりそうな「サザエさん症候群」。 いったいどうすればあの憂鬱な自分に抗うことが出来るのでしょうか?ここから先は、「サザエさん症候群」の克服方法を考えてみます。 オン・オフをなくしてみる まず手軽に出来そうなことは、日曜日の過ごし方を見直してみることです。 筆者の休日の過ごし方を例にして、平日と休日の落差を小さくしてみると… ・朝の起床時間を極力平日と同じの時間にする ・昼間に外出する ・軽く運動する など まずは家から外に出てみること。 無理矢理予定を作らなくても、近所に買い物するだけでも良いと思います。 ちょっと外に出るだけで、リフレッシュ出来そうですね。 休日は引きこもりがちな筆者でも、これなら出来そうな気がします。 自宅で仕事が出来る環境であれば、日曜の夜に少しだけ 「仕事」をしてみるのもよさそうです。 日曜なのに仕事をするの?と声が聞こえてきそうですが…ここで言う「仕事」とは、 ・明日からのスケジュール管理 ・簡単なメールチェック など 1時間で終えられそうな軽いタスクのことです。 頭の中が「休日モード」から、「仕事モード」へ緩やかに切り替えられるので、余裕を持って月曜日が迎えられます。 「楽しい」ことは「憂鬱」に勝る!? 「サザエさん症候群」対策には、月曜の夜に楽しみを作るのもおすすめです。 仕事の後に予定が入っていると、 その日の仕事を「頑張ろう!」という気持ちになりますよね。 予定を入れるのは月曜でなくても、週の中頃でも良いと思います。 筆者がたまにやっているのは、金曜日の仕事終わりに映画を見る予定を入れています。 次からは水曜日に変えてみようと思います。 他人の力を使って「サザエさん症候群」を克服 「サザエさん症候群」対策として最初にやるべきことは、「ストレスの原因を知る」ことです。 仕事が嫌だ・会社に行きたくない、と思っているだけでは解決しません。 相談出来る方に話しを聞いてもらったり、カウンセラーに頼ってみるのも手です。 誰かに話すだけでスッキリすることもあれば、自分では思いつかなかった知恵を授けてくれるかもしれません。 「サザエさん症候群」からの脱出 「サザエさん症候群」は誰でもなる可能性があります。 少しでも気持ちよく新しい週を迎えるために、筆者も休日の過ごし方を少し見直してみようと思います。 もう休日に2度寝しちゃったり、部屋に引きこもったりしません! と言っても、そこまで自信があるわけでもなく…まずは、土日のどちらか1日だけ外出する予定を入れてみようと思います!.

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『サザエさん』 磯野家に学ぶ“現代間取り術” [住宅設計・間取り] All About

二 十 年 後 の サザエ さん

『インド巡礼1080日—椎野能敬遺稿集—』という本を頂いた/松本榮一 松本 榮一 『インド巡礼1080日—椎野能敬遺稿集—』という本を頂きました。 昭和60年発行の本ですから古い本です。 この本の著者、椎野能敬さんはインドで客死した旅の僧侶です。 インド各地の仏教遺跡を十数年に渡って調べていた旅の僧侶でした。 最後はインド・ビハール州の小さな駅チャッカルダルプールで亡くなりました。 1982年の10月のことでした。 享年39歳でした。 普通、調査というと大学に所属して、文科省から科研費をもらって、教授のもとに何人かで行います。 しかし椎野さんはほとんど無一文で、インドの仏教遺跡を一人で調査していました。 それは調査というよりも私には求道のように思えました。 実は私は生前の椎野さんとお会いしていました。 1974年に二度目の渡印を果たした椎野さんとインド・ブッダガヤの尼連禅河の辺りで話をしたことを今も鮮明に思い出します。 椎野さんは旅の思いを熱く語っていました。 椎野さんは千葉県東金市で生まれました。 父は法華宗の元福寺で住職をしていましたが、早く亡くなり、母が後をついで住職となり、その母も亡くなり、椎野さんが住職を継いだのでした。 そんな生い立ちも影響したのでしょうか、仏教書の読誦三昧の生活の後、1968年、25才のときに最初のインドへの旅に出ます。 それからの椎野さんは何度か帰国はするのですが、常に心はインド、仏跡に向いているようでした。 改めて、1080日に及ぶ椎野さんの巡礼者のような旅の記録を読み返してみると、驚くような綿密な調査活動をやり遂げていたのだということがよくわかります。 一人で超人的な仕事をしていました。 今日まで伝わる椎野さんの仕事の第一は、摩訶迦葉・マハー・カシャーパの入定した鶏足山はガヤーの南東にあるグルパ山であると特定したことでしょう。 「わたしはすでにグルパ山の麓で この山が鶏足山であると信じていましたが、大岩石の割れ目をくぐって、このお山が鶏足山であると確信しました」とこの本のなかで語っています。 マハー・カシャーパは仏陀の仏教教団サンガで一番の高弟と言われた人です。 仏陀の亡くなった後の教団を統率して、最初の経典編纂会議・結集を主宰しました。 今日の経典の元を作った人です。 そして最後に一人で鶏足山に入っていって入定したと伝えられています。 経典に載っている鶏足山はインドのどの山であるかは仏教徒にとって大きな問題でしたが、椎野さんはこの山をグルパ山であると特定したのです。 いま鶏足山はラダック出身のアーナンダ師に引き継がれ石段も整備され登りやすくなりました。 それでもこの山は相当な難所です、私が登ったときには土地の人が引っ張り上げるように介添してくれました。 山頂で私はこの山で消えてしまったマハー・カシャーパの姿が現れないかと思わずさがしていました。 高野山の弘法大師のように、マハー・カシャーパは仏教徒にとって不滅の存在です。 椎野さんが書いた、この本はいくつかの遺跡調査の章に分かれて書かれています。 朝日新聞におられた福田徳郎さんと一緒に行く予定だった南インドの補陀落山調査は、彼が亡くなってしまったために予備調査だけに終わりましたが、実施されていたら素晴らしい成果を生んだことでしょう。 仏陀がお亡くなりになったクシナガラや城跡のカピラヴァストゥなど、仏陀の生い立ちや亡くなるときの伝説と史実の調査がたくさん項目に上がっていました。 もう少し長く生きていたら達成したであろう、これらの仕事は後の私達が継いでいくでしょう。 継いでいくといえば、シャンティニケタンの牧野先生もこの本に一文を寄せておられます。 この大学で教鞭をとることになった奈良康明先生との出会いを椎野さんは大変楽しみにしていたようです。 奈良先生から学びたいと思っていたようです。 しかし二人は会うことは出来ませんでした。 ビハール州の南端の駅の列車の中で亡くなっていたからです。 椎野能敬さんの心を呈してインド仏教の記録を継いでいきたいと思います。 その意味で椎野能敬さんは私たちにとって不滅の存在です。 写真撮影:福田徳郎氏 松本榮一の主な仕事 eiichim gmail. com *写真集『インド』全三巻、『西蔵』全三巻、共に毎日コミュニケーションズ刊 *東北大学西蔵学術登山隊学術班に参加してチベットを縦断。 小学館より写真集『極限の高地 チベット世界』として発表 *平山郁夫画伯、堤清二氏などと共にアンコールワット修復日本委員会に参加。 取材撮影を行い『アンコール・ワットへの旅』講談社刊 *チベットの聖地カイラースを色川大吉氏、上野千鶴子氏などと共に旅行し、写真集『KAILAS チベット聖地巡礼』にまとめる *多田等観請来の仏伝図を撮影し、豪華本『釈尊絵伝』学研刊 *インド・ラジャスターン州の染織を取材する *NHKの大型企画NHKスペシャル『ブッダ』取材に参加する *写真集『祈りのブッダ』奈良康明先生と共著 *松原哲明師と共著の写真集『三蔵法師の道』河出書房新社 *『聞き書きダライ・ラマの言葉』NHK新書.

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古民家の宿20日オープン 金山の加藤夕子さん空き家を改修(福島民報)

二 十 年 後 の サザエ さん

[chapter:カツオと波平] 「カツオー! 」 今日も磯野家は波平の怒号が飛ぶ。 「カツオ、お前、就職活動はどうなんだ」 「どうって、まあボチボチボチってところかな」 「なんだその言い草は! お前、ハローワークには行ったのか! 」 カツオは今年26歳。 大学を中退した後は就職もせずにフラフラしている。 「ハローワークね。 行ったよ。 三か月前にね」 「ばっかもん! 続けて行かなきゃ意味がないだろう! 」 カツオは波平と目を合わせようとせず、ため息を吐いた。 「ハローワークには僕が探している仕事は無いよ」 「なにぃ? 」 「父さん、僕はね、作家になりたいんだ」 カツオの言葉を聞いた波平は、顔を真っ赤にして今にも噴火しそうだ。 それでもカツオはやめない。 「家族には苦労掛けて申し訳なく思うけど、これも必要な過程なんだよ。 元来作家っていうのはね、普通の生き方をしてはいけないんだ。 これは運命的なことなんだよ」 「なぁにを馬鹿げたことを! だいいちお前、先のことを考えているのか! 」 それを聞いたカツオはふふんと人を小馬鹿にするような表情を見せる。 「もちろんだよ父さん! これから僕の書いたラノベが新人賞を獲って、その本が売れに売れ印税収入がどかーん! その上アニメ化なんかもされちゃったりなんかして……」 「……らのべだか何だか知らんが、カツオ、それは本気で言っているのか? 」 波平の身体がわなわなと震えている。 「まあ、僕ももう大人だ。 そんなに上手くいかないことくらい分かってるよ。 でもさ、人生何が起こるか分からないから楽し」 「ばっかもーん! 」 磯野家が再び揺れる。 古くなった家からミシミシと音が聞こえるようだ。 「……くぅ、父さんのカミナリは相変わらず効くなあ」 「ふざけたことを言うんじゃない! お前今年で何歳になる! いい大人が、大の男が、いつまでもそんなガキのようなことを言っているのでは恥ずかしくてご近所に顔向けもできん! 」 「……近所ね」 「いいからすぐに就職をしろ! そうすれば今のお前の考えが如何にくだらないか、嫌でも分かる」 「それが分かって、その後はどうするんだい」 「な、なに? 」 「今の僕が全然ダメで、だから就職をする。 そうすればこの先の安心を買えると言うの? 」 「なぁにを訳の分からないことを! 当たり前だ! 」 「安心の為に自分を捨てろと? 」 「なっ、まだそんなくだらないことを! 」 「くだらなくない! 馬鹿げてなんかもない! 父さんはいつもそうだ! 」 今度はカツオが大声を上げる。 驚く波平。 その声に台所から様子を窺っていたフネがたまらず居間に出てきた。 「カツオ、そんな大きな声を出すもんじゃありませんよ……! 」 「うるさいな! 母さんは黙っててよ! 」 「母さんになんて口の利き方だ! 」 「父さん! 話を逸らさないでくれる? だいいち、就職なんかしたところで会社の使いっ走りにされて、いらなくなったらゴミのように捨てられるのがオチなんだ」 「何を言うか! ……父さんだってな、決して給料は高くなかったが、同じ会社で定年まで働いてきたんだぞ。 何もそんな悪いように悪いように考えることはなかろう」 「自分が生きたいように生きて、ダメならダメでその花火を自分の意思で派手に散らすような生き方がしたい。 それを願って何が悪いんだ! 」 「ば……カツオ! 」 「だいたいね! 今の時代就職したところで安心なんか買えやしないんだよ。 父さんの時代とは違うんだ! 父さんは全然分かってないね! 」 「っ! カ、カツオ! うぐっ」 「あなた! あまり興奮されるとお身体に障りますよ」 「うぬぅ、大丈夫。 心配するな。 それより、カツオ……」 波平はただただうなだれる他無かった。 [chapter:サザエとカツオ] その日の夜。 「カツオー。 ちょっと入っていいかしら」 「姉さん、なんか用? 」 カツオの部屋にサザエが入る。 その手にはお茶とせんべいの乗った盆。 「これ、甚六さんがね、食べてって」 「あー、甚六さんか。 帰ってきてるの? 」 「そう。 中国のお嫁さん貰ってからますます仕事がんばってるみたいね」 「……それ、僕へのあてつけ? 」 「そうかもねー」 「そういうのなら出てってよ」 「ふふ、まあそう言わずに。 あんたまた父さんと喧嘩したんだって? 」 どうやら先ほどの言い争いのことをフネから聞いたそうだ。 「喧嘩じゃないよ。 意見の交換さ。 それでたまたま互いの見解がすれ違ったってだけ」 「もう、それを喧嘩って言うんじゃない。 父さんも歳で高血圧なんだし、あんまり興奮させちゃだめよ」 「分かってるよ」 「あー、このおせんべいおいしい。 あんたも食べなさい」 カツオはここのところどうにもサザエが苦手である。 この姉はいつでも自分より一歩上手な気がしてならない。 どうしてもペースを持っていかれてしまうのだ。 「……姉さんはね、あなたのこと理解してあげたいし、だけど父さんの気持ちもすごくよく分かるわ」 「いいよ、そういう話は」 「あなたには鬱陶しく聞こえるかもしれないけどね、父さんはあなたのことを考えてあんな風に言ってくるのよ」 「たしかに鬱陶しいね」 「……カツオ」 「冗談だよ。 でも、僕は自分の生きたいように生きたいんだ。 それは絶対に譲れない」 それを聞いたサザエはお茶をすすり、ふぅ、とひと息吐く。 「まああんたなら大丈夫だと思うけどね。 ほどほどになさい」 「ほどほどってなんだよ」 「ほどほどはほどほどよ。 じゃ、邪魔したわね」 「……姉さん」 「んー? 」 「ありがとう」 「……」 [chapter:ワカメとフネ] 会社から二駅先にあるマンションにワカメは一人暮らししている。 仕事に疲れて帰っても、彼女は夕飯の自炊を欠かしたことがない。 今夜も夕飯を食べながら21時のドラマを観ようとしたところ。 そこでバッグの中に入れたままにしてあったスマートフォンが鳴る。 「あら、お母さんからだわ。 もしもし? 」 「ああ、ワカメかい? そっちはどう? 」 「うん。 元気よ。 お母さんは? 」 「こっちはみんな元気よ。 ただねえ……」 「さてはお兄ちゃんね? 」 「そうなの。 今日もお父さんと大きな声で怒鳴り合いの喧嘩してね……」 「ええ? 大丈夫なの? 」 「ええ。 サザエが様子見に行ってくれたから」 「さすがお姉ちゃんね」 「……あの子ほとんど部屋に籠りきりでしょう。 心配で心配で」 「うーん。 お兄ちゃんのことはともかく、お母さんやお父さんが心配だわ」 「ううん、私たちのことはいいのよ。 どう、あなたは仕事上手くいってるの? 」 「それが全然。 今日も先輩に怒られちゃった」 「あらあら」 「でもがんばってる」 「そう。 ワカメなら大丈夫よ。 でも無理しないで、たまには顔見せてね」 「うん。 分かった。 ……あんまりお兄ちゃんひどいようなら、私からもガツンと言うから」 「フフ、ありがとうね」 「うん。 じゃあ身体に気を付けて」 「はい。 ワカメもね。 じゃあね」 ベットの上に伸ばしておいた充電コードにスマートフォンを接続する。 部屋はテレビから流れるたいしておもしろくもないドラマの音声で満たされている。 (私、昔のお兄ちゃんは大好きだった。 でも今は働きもせずにお父さんとお母さんを泣かせてばかり。 ねえ、お兄ちゃん、一体どうしちゃったの? ) [chapter:タラオと三郎] 「ちはー! 三河屋ですー! 」 「ああ、サブちゃん、こんにちは」 「タラオ君。 どうだい、勉強の方は」 「あはは、それがなかなか上手くいかなくて」 「大変そうだなあ。 僕は高校出てからこっちに上京してきたからさ、大学受験の本当の苦労って分からないんだよね。 ……あ、そうそう、何か足りないものは? 」 「あ、ええと……」 タラオはこの年の3月に高校を卒業し、現在浪人生である。 「そういえばカツオくんは元気かい? 」 「あ、ええと、はい。 今も部屋の中で……」 タラオはそこで口を噤む。 「そっか。 カツオ君もカツオ君なりに大変だろうね」 三郎もカツオについてそれ以上聞こうとしない。 「……サブちゃん、僕、カツオ兄さんの気持ち、家族の中で一番分かるかもしれません。 今こうやって浪人してて、この状況に不安を覚えることがあるんです。 一歩間違えると全てを放って逃げ出しそうになる自分がいて。 僕にもカツオ兄さんと同じ血が流れてます。 もしからしたら、僕とカツオ兄さんは似た者同士かも。 なんか、カツオ兄さんを見ていると、僕の未来の姿を見ているみたいで……こんなこと言うの、カツオ兄さんに悪いし最低だって思うけど、すごく辛くなるんです。 カツオ兄さんがいなければって、そう思うんです」 タラオの思いつめた言葉を聞いた三郎は、両手に持っていたビールケースをその場に置き、話し始めた。 「僕が最初にいた会社を辞めて今の三河屋に入ったときにさ、社長に言われたんだ。 『サブ、お前は現状に満足するなよ。 どんどん人と会って、自分の見識を広げてこい』って。 正直そのころの僕は腐ってたからさ、そんな風に言われても全然響かなかったんだよね。 何がなんだかさっぱり分からなかった。 たかだか酒屋の御用聞きがさ、見識なんか広げてどうすんだって」 「……」 「でもその言葉がどうも心のどこかに引っ掛かってたんだろうね。 元々田舎者で人と話したりするのは決して得意じゃなかったんだけど、それからは町の人たちと世間話を織り交ぜつつ色んな話をするようにしたんだ。 そしたら町の人たちの素性っていうか、噂話から悩み事まで、いろんな話が僕のところに舞い込んできてさ。 変な言い方だけど、それがすごくおもしろくて。 笑えるものからちょっと深刻なものまで色々と聞いたよ。 仕事がおもしろいって思えたの、そのときが初めてだったな」 「サブちゃん、色んなこと知ってますもんね」 「だろう? 歩く井戸端会議だからね。 世のマダムに引っ張りダコさ」 「あはは」 「ま、それは冗談としてだ……多分、カツオ君はさ、今人生の間でもがき苦しんでいるところだと思うよ。 でもこれだって、新たな出会いや別れが全てを解決してくれるさ」 「だといいですけど……」 「大丈夫さ。 それにカツオくんはすごくいい奴だからさ、タラオ君がそんな彼に似ているってことは、誇らしいことなんじゃないかな」 「サブちゃん……」 「ま、固い話は抜きにしてさ、今は他のことに目をくれず勉強するんだね。 今度の受験に合格したら、僕が極上の酒をタラオ君にご馳走してあげるよ! 」 「はは、嫌だなあ、僕はまだ未成年です」 「あ、そっか! じゃあ別の何かを考えとくよ。 じゃ、毎度あり! 」 [chapter:マスオとノリスケ] 会社帰り、駅前を歩くマスオ。 そこに駆け寄るノリスケ。 「マスオさーん! 」 「ああ、ノリスケ君」 「今帰りですか? 」 「そうだよ。 ところでどうだい? この後一杯」 「いいですねー! 行きましょう! 」 処変わって屋台のおでん屋。 「あー、今日はずいぶん飲んだねえ」 「そうですね。 こりゃタイ子に怒られちゃいますよ。 毎日パートに出てくれて、苦労かけてますし」 「君も立派な家買ったからね。 うちに居候していたころが懐かしいよ」 「あはは、あの時は波平おじさんにも本当にお世話になって」 「うんうん。 ところでどうだい、イクラちゃんの受験の方は」 「あー、うちの倅はマイペースですから、なんとかなるんじゃないですかね」 「すごいなあ。 だって東大だろ? 」 「いやあ、まだこれからですから。 受かると決まっているわけじゃないですし」 「いやいや、受けるだけでもすごいよ」 「そんなこと言って、タラオ君だってがんばってるでしょう? 」 「うーん、そうだね。 まあ浪人生活は何かと大変みたいだね」 「懐かしいなあ。 僕にもそんな時代がありました」 「そうだねえ。 若い内は色々と悩んでさ、大人になっていくんだよねえ」 「……僕らも歳を取りましたね」 「まあ、それもいいじゃないか! さあ、もっと飲むぞ! 」 「わわっ、ローンが! タエ子に怒られる! 」 「遠慮するなって! 今夜は奢るからさあ! 」 [chapter:家族] 「ただいまぁ」 「あらあなた! もうこんなに酔っ払って! 」 「水ぅ、水をくれい! 」 「ああ、父さん、大丈夫? 」 「おお、タラオ、勉強はどうだい? がんばれよー」 「もう、分かった分かった。 酒臭いよ。 母さん、寝室に運べばいい? 」 「悪いわねータラオ。 お願いできる? 」 そう言うとサザエは水を取りに台所に向かった。 「はいはーい。 ほら、がんばって」 「うぃー」 その時、カツオの部屋の襖が開く。 「……」 「あ、カツオ兄さん」 「おっカツオ君じゃないか! どうだい! 作家業の方は! 」 「父さん……! 」 「いいんだ。 酔っ払いに何言われようと、別に気にしないよ」 そのまま居間の方に向かって立ち去ろうとするカツオ。 「君は一体どれだけのものをこの世に残すつもりなんだい? 」 酔っ払ったマスオから放たれた一言に、背中を向けたカツオの動きが止まる。 「つまり、君は、穀潰しなわけだが、僕らの生活にとって何のメリットがあるんだい? 」 「マスオ兄さん、それがマスオ兄さんが普段僕に対して思ってることなんだね? 」 あたりを支配するのは凍てつくような空気。 今にも割れて崩れてしまいそうである。 「僕の? 嫌だなあ、みんなそう思って……」 ガスッ! カツオの拳がマスオの顔面に飛んだ。 タラオに支えられていたマスオの身体が床に落ちる。 その上に覆いかぶさりカツオが更にマスオの顔を目掛け殴ろうとする。 それを必死に止めるタラオ。 「カツオ兄さん! やめて! ごめんなさい、許して! 」 「……っ!! ……っっ!! 」 言葉にならない言葉を発し、カツオはタラオに羽交い絞めにされながら暴れている。 「ちょっとちょっと、どうしたって言うのよ! 」 台所の方からサザエとフネが飛んでくる。 「あらやだ、あなた、血が出てるじゃないの! 」 「いやあ、大したことないよ。 ……僕もちょっと言い過ぎちゃったからね」 「カツオ! あんたがやったの?! 」 「……そうさ」 サザエの質問に対して少し落ち着きを取り戻したカツオは何でもないことのように答える。 それを聞いたフネが口を押えて狼狽する。 「どうして、そんな……」 「どうせ僕なんか、この家にいたって何の役にも立たないただの穀潰しさ」 カツオはその場にいる全員を舐めまわすように見つめ、言い捨てる。 「マスオ兄さん、僕のこと、警察にでもなんでも訴えればいいよ! 」 バチン! サザエがカツオの頬を叩く。 「馬鹿……しっかりしてよ……」 その時カツオはサザエの目に涙が浮かんでいるのを見た。 カツオはそのまま家から走って出て行った。 「……ワカメか」 ビジネスコートを着たワカメは静かに兄の横に腰掛ける。 「なんだよ。 お前、どうしてここにいるんだよ」 「お母さんから家であったこと聞いてね。 電車乗って飛んできたのよ。 それでお兄ちゃんなら、きっとここにいるかなって」 「余計なことを……」 ワカメが無言のままホットコーヒーを差し出す。 それをカツオも無言のまま受け取った。 「もう、僕の居場所はあの家には無いのかもしれない」 「じゃあ、一人暮らしする? 」 「……金が無い」 「私の家に来たっていいのよ」 カツオは顔を上げて隣を見る。 ワカメは真っ直ぐに前を向いたまま両手で持った缶コーヒーに口を付けている。 「……そういうわけには、いかないよ」 「そう? 」 少しばかりの沈黙が辺りを支配する。 するとしばらくしてワカメが再び口を開いた。 「私ね、今の仕事辞めようと思うの」 「えっ」 「入った時からなんとなく感じていたんだけど、なんだか私には合わなくて」 「……」 「いつも先輩や上司に怒られちゃうし、今日だって……」 ワカメの缶を握る手の力が強まったように感ぜられる。 「たまにお母さんと電話で話すとね、お父さんの体調のこととか、タラちゃんの受験のこととか、あと、お兄ちゃんのこととか、みんな大変そうで、そういう話を聞くたびに家族のことが心配になって。 私が帰って何ができるわけじゃないのよ。 でも、家族の問題を言い訳に、私自身の問題から目を逸らそうとしている私がいて……」 そう告白するワカメは伏し目がちに続ける。 「家族をダシに使って、逃げ出そうとしているのよ。 ダシは私なのにね」 変な冗談を織り交ぜ無理やり笑顔を作る妹の姿に、カツオは言葉を探しあぐねた。 「そんなこと、ない。 ワカメは、がんばってるだろ。 ……僕なんかに言われても嬉しくないだろうけど」 それを聞いたワカメは、心無しか嬉しそうに言う。 「そんなことないわ。 ……いやだなあ、お兄ちゃんはいつまでもお兄ちゃんなんだから」 「こんなちゃらんぽらんでも、か? 」 「そうね」 「こいつ」 冬の星が綺麗である。 カツオは妹に掛けるべき言葉を見つけ、口を開く。 「もうちょっとがんばってみろよ」 「……うん」 思ったよりも素直に兄に同意する妹。 その返答にカツオは少しばかり安心した。 「……ああ、マスオ兄さんに悪いことしちゃったなあ」 「大丈夫よ。 マスオ兄さん、少し酒癖悪いところあるけど、根はやさしいじゃない」 「そうなんだけどさ」 その時、公園の入り口から三つのお団子を持った頭が入って来た。 「……姉さん」 「ほら、帰るわよ」 ぶっきらぼうに言い放つサザエ。 隣でワカメに促され、カツオはゆっくりと立ち上がる。 小さい声で、ただ「ごめん」と言う他無かった。 すみませんでした、お義父さん」 「カツオも分かったか? 」 「……はい」 「母さん」 波平が声を掛けると、すぐにフネが台所から出てきた。 「はいはい。 今持っていきますよ」 その手元には徳利と、三つのお猪口。 「まあなんだ。 父さんも色々と口うるさいことを言うが、何もお前が憎くて言ってるわけじゃない。 別にお前がその、らのべとかいうのを書きたいというならもうそれを止めん。 自分が納得いくまでやってみたらどうだ」 「父さん……」 「それでもダメなら、大丈夫。 お前には家族がいる。 決してお前のことを見離したりしない家族がな」 「……っ! 」 カツオの目からボロボロと涙がこぼれ落ちる。 「……ずるい、ずるいよ、父さん」 「親父と言うのはいつの時代もずるいものだ。 ほれ、もう一杯呑まんか」 「はい、いただきます……」 「お義父さん、僕ももう一口……」 「マスオ君もかね。 ちょっと呑み過ぎじゃないのか? 」 「えー、僕もまだまだいけますよお」 「あなた! あなたはダメ! 呑み過ぎよ! 」 「ちぇ、サザエに言われちゃあしょうがないかあ」 笑いが起こる食卓。 そんな今日の磯野家である。

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